言わなくても、わかってると思ってた。
そりゃああたしだって年頃の乙女だから、もてたい! って思ったりもしてたけど、いざ……ってなるとやっぱり脳裏にうかぶのはあの二人の姿。
御館様はともかくとして、風魔のやつまで出てくるんだから良い雰囲気になってたって、もうそれどころじゃない。
目の前にいる男を思いっきり突き飛ばしては、襖の外までふっ飛ばしたり、階段から落としたりして怪我をさせていた。
そんなんだからあたしの元に男は寄り付かなくて、あたしはこの年にしておひとりさま……
なんてことだろう。
それもこれも、御館様はともかくとして、小憎たらしい風魔のせい。
「責任とんなさいよ」
「なぜ我が……」
「こっちの台詞よ。なんでアンタなのよ。おかげであたしの青春めちゃくちゃだわ」
「ほお、混沌に好かれる才を持っているとは、大したものだ」
「うれしくなーい!」
何が小憎たらしいかって、図体がでかいくせにすばしっこいことだ。
あたしが力任せに繰り出した攻撃なんて当たったためしがない。
話してても振り向いたらいなくなってたりするし、風魔はその辺の男とは全然違う。
なんだかんだいって、あたしあいつのこと好きだった。
降り注いだ矢が、全部あいつの体に命中して。
崩れ落ちた風魔を容赦なく降ってきた雨がうちつけて、痛そうで寒そうで、いたたまれない。
「死ぬんじゃないって言ったのに……」
太平の世などくだらんとか言いながら、あんたが北条を大切に思ってたこと。御館様のこと好きだったこと。風魔一党を率いて頑張ってたこと。あたしちゃんと知ってたよ。
知ってたのに。ねえ、風魔。どうしてちゃんと言葉にしなかったんだろう。
あたしあんたのこと好きだったよ。
死ぬなって言ったのに。先に死んじゃうなんて、ずるい。
このあと子犬登場
|