ワルシャワで待つ |
破れた世界からアカギさんは戻ってこない。でも私も、もう彼を追いかけたりはしない。彼は彼の中の正義に従うことでしか生きていけないという意味が、私にもようやくわかった。だから彼を追いかけない。と、言うよりも、正直に言うと手のうちようがなかった。彼を連れ戻す切り札を持っていないのだ。 「愚かね」 シロナさんが破れた世界を出る間際、世界の奥に潜っていくアカギさんの背中を見てそう言った。それは私に投げかけられた言葉のようでもあり、後悔だけがあの世界に残った。 ギンガ団の人たちは無事にアカギさんを見つけられただろうか。私はあれからあの世界に行くことができない。行って、アカギさんに会って、かける言葉がない。明確な目的を持って彼を必要としているギンガ団の人たちを羨ましく思うほどだ。私が、彼の心を動かすにはどうすればいいのだろう。 頑張って考えてみても明確な答えはでなかった。だからリーグ内にあるシロナさんの部屋を訪れた。シロナさんは快く私を迎えてくれた。私たちは温かいココアを持ってバルコニーに出た。リーグの入り口はライトアップされていて夜でも昼間のように明るいけれど、関係者の寮は入り口と反対側にあるから人工的な明かりが少なくて星がよく見えて綺麗だった。 「あなたって、どこまでも優しいのね。普通一般市民はあの男にそんな心配はしないものよ」 私が黙っているとシロナさんは一度大きく息を吐いた。シロナさんの白い息は空に昇って、視界に収まりきらないほどの星空に溶けた。 「これからの人生小さなこと一つ一つに思い悩んでいたのでは、とてもじゃないけれど生きていけないわよ」 頷くとシロナさんは笑った。 「好きなのね、アカギのことが」 シロナさんは楽しそうに笑っていた。私は恥ずかしいやら、否定したい気持ちやら、でも本当はアカギさんが好きだから否定できない気持ちやらがごちゃまぜになって、なんだかよくわからなくなってしまってとりあえず笑っているシロナさんの肩を叩いた。 「なんで笑うんですかー」 むしろね、とシロナさんは言葉を続けた。 「むしろ、アカギにはあなたくらい優しい愛に溢れた子のほうがいいと思うの。でもアカギは怖いのね」 頭に大きな漬物石が降ってきたような気がした。アカギさんには、私がお化けに見えているのか……。 「でも、その内、まぁアカギの場合何年かかるかわからないけど、ヒカリちゃんがお化けじゃないってわかるわよ」 すがりつくような気持ちでそう聞いた。自分がお化けに見られているなんて、とても気分がいいものではない。 「彼は大人なんですもの」 その言葉で自分とアカギさんの間にある絶対に埋まらない年の差を思い出した。その差が私を更に絶望的な気持ちにさせているのだ。何度私が大人ならば、と思っただろう。そうすれば私はもっとあの人の気持ちを汲み取ってあげて、最善の対処ができたのに。 END 09/11/06、修正10/01/19 |