ながいゆめ
彼女を手元に置いている以上、言い訳などできないのだが。
それでも、「アカギさん……」と彼女に甘く呼びかけられるたびに、何か弁明したい衝動に駆られた。出会ったころよりも成長した彼女だが私から見ればまだ少女の域を出ていない。だけどどこで仕入れた知識なのか、布団の中でキャミソールから伸びる足を私の足に絡ませてきたりする。「アカギさん……」と切なげに名前を呼ばれても返事は返さない。そういう時私は決まって考え事をしている。私ではなくて彼女が、世の中をまだ知らない、私は何も彼女が自分の意思を持って円周率を数える私は、3. 141592653589793238462643383279……。
シーツの衣擦れの音が妙に響く。彼女が身じろぎをして私に寄り添う面積を広めた。イヤなのだ。ただでさえ彼女と暮らしているということが私を後ろめたい気分にさせるというのに、意思に反する体と彼女が私は何よりも憎らしい。
「寝ちゃいましたか?」
無論起きている。寝返りをうって目があうと少女は笑った。私は、もう寝なさいという言葉を飲み込むしかなかった。彼女の髪の毛からは苺の香りがする。
「アカギさんがいちばん好きです」嗚呼感情の、なんと不毛なこと!
END(終われ)
10/8/24
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