文明がほとんど発達していないランセ地方を、アカギさんが気に入るなんてすごく意外だった。
わたしたちはこの国にたったひとつしかないタウンマップを特別に見せてもらっていた。
わたしにしてみればそれはただこの地方の形を表したものにすぎないけれど、アカギさんにとってそれは宝の地図。
ぼんやり地図を見上げていたら、「ほら、なにかに似ているだろう」と、アカギさんはわたしの興味をひくのに必死で可愛い。
「本当だ、ランセ地方は、アルセウスの姿に似ています」
見た瞬間に気づいてたけど、さも今気づきましたという風に驚いてみせた。
「この地方にも長年伝わる伝説があると、オイチという女が言っていただろう」
「十七の城を手に入れると願いが叶うそうですね」
「そうだ。その話とこのタウンマップとを見れば、その伝説のポケモンがアルセウスだとすぐにわかる。だがこの地方の人間は、どうやらアルセウスという名前のポケモンがいることも、また姿形がどんなものかも知らないらしい」
もともとの神話好きと相まって珍しくアカギさんは興奮していた。
興奮すると、アカギさんは前みたいな悪い顔になるんだけど、
この地方のひとはアカギさんが昔ギンガ団のボスだったことも、シンオウ地方でなにがあったかもしらないから大丈夫。
の、はずなんだけど、わたしは少し不安になった。
「アカギさん、まさか悪いことなんて考えてませんよね?」
「何だそれは。そもそも善悪の区別など、時代や場所によって異なるものだろう。ここはシンオウ地方ではない」
「考えてないなら、別にいいんですけど……」
その顔、みんなの前でしないほうがいいですよ。
それからアカギさんは書物を読みたい、と言い出して、この国のブショーリーダーのサクロンさんに、よければ書物庫に案内してもらえないか、と頼んだ。
サクロンさんは快く承諾してくれた。
それもそうだ。
アカギさん、さっきとは全然似ても似つかない、とびっきりの笑顔で頼むんだもん。
あれは、アカギさんの嘘の笑顔なんですよって、教えてあげたいような気持になった。
アカギさんの、ばーか。
END
12/07/07
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