大きな鳥の羽音が聞こえてうれしくなったのは、
縁側に腰をかけ両足で意味もなく宙を蹴る行為にいい加減飽きはじめていたからだ。

ムネシゲさん。
弾んだ声に、ムネシゲさんもうれしそうに手を挙げて応えてくれた。
彼に駆け寄りたい一心で脱ぎ捨てていたブーツに足をつっこもうとしたけど、
うまくいかなくてもたついていたら、ムネシゲさんのほうがわたしの隣に座ってくれた。

「暇そうだな」
「すごく。ムネシゲさん遊んでください」
「いいのか? 旦那が心配するぞ」

旦那、という言葉になんて答えたらいいのかわからなくなった。
ムネシゲさんは、アカギさんをわたしの旦那さんだと思っているんだ……。

「あ、あの、アカギさんとわたしは、結婚なんてしてないんですよ」
「なんだって」
「わたしたち別に夫婦じゃないし、なんでもないんです」

ムネシゲさんは目をまん丸くした。
驚いているみたい。
心なしがムクバードも驚いているみたいに見えた。
ムネシゲさんが思っていたってことは、サクロンさんやオイチさんもそう思ってたのかな、と思うと少し恥ずかしくなってしまう。

ムネシゲさんは口元に手をあててわたしの耳元に顔を寄せた。

「そのこと、俺以外に言わないほうがいいぞ」
「もう聞いた」

背後の障子をスパーン! と開け放ったのはギンチヨさんだった。
腕を組み、仁王立ちをしていて、かなり怖い。怒っているみたいだ。

「ヒカリ。あの男と祝言をあげていないというのは真か」
「は、はい。わたしたちは夫婦でも、まして恋人でもないですから……」
「つまりあの男が責任を放棄したということか」
「へ? なんの話ですか?」
「許せん……お前の敵はわたしがとってやる」

ギンチヨさんはわたしの話を聞いてくれない……。

「まあ待て、ギンチヨ。ふたりの親が関係を許さないということも十分考えられるだろう」
「なるほど。それでシンオウと呼ばれる島から逃げてきた、というわけか」

全然違うのに、ふたりともわたしの話を聞いてくれない。
というかムネシゲさんはわざと言っているみたいだった。
精一杯、笑いをこらえた顔をしている。

「そうだギンチヨ。俺とお前がヒカリとアカギの仲人になってやればいい」
「ふむ、それはいい案だな。ではわたしはあの男と話をつけてくる。ムネシゲ、お前はサクロンに話を通せ」
「じゃあオイチにも声をかけて、侍女たちも集めておくか」

去り際、ムネシゲさんがしたウインクで気が付いた。
大掛かりで大騒ぎになりそうなこれは、ムネシゲさんのお遊びなのだと……。






To be continued・・・。
2015/02/21