「いよいよ明日が結婚式ですねえ」
部下が柄にもなく感慨にふけっているのを珍しく思った私は、つられるように「誰のだ?」と聞き返した。部下は笑いながら「何言ってらっしゃるんですか。ボスのですよ」と答えた。一瞬呆気にとられたがすぐにそんな気になってくるのだから不思議だ。だが一応念のために聞いておく。
「サターン、今日は何月何日だ?」
「五月四日です」
どうやらエイプリールフールではないらしい。
しかし私が、一体誰と。
そんなことばかり考えているから仕事は全くはかどらなかった。気づけばとっくに定時である。帰る前にこの書類だけでも終わらせておこうと決めて、でもその前にコーヒーを飲もうと社長室を出たところを呆気なく部下に捉まった。
「ボス、今日は早く帰って、明日に備えてください」
こうして私は一日仕事らしい仕事をすることなく家路につくのであった。
帰ってから手がかりを探してみたが、残念ながら結婚相手はわからなかった。と言っても可能性がある女性は一人しかいないわけなのだが、行政がそんな大層なシステム改革を行ったという話は聞いていない。頭の中にありとあらゆる可能性が浮かび、だけどどれもすぐに消えた。モンスターボールからマニューラを出した。猫の手でも借りたい気分だった。
「お前、もしかして私の結婚相手なる人物を知っているのではないか?」
そう聞くとマニューラは嬉しそうに何かを喋り始めたが、いかんせんポケモンの言語はわからない。しかしどうやらこのマニューラ、相手のことを知っているようである。
「その相手は私よりバトルが強いか?」
マニューラは首を縦にふる。
「……もしかしていつもスカートをはいている人物ではないか?」
マニューラは頷く。
にゃにゃにゃ、とか何とか言いながら両方の手を額のわきにかかげる。そういう髪飾りをつけた女性、といってもまだ十歳のあの子の姿が目に浮かんだ。
「……バカな」
「にゃにゃ?」
「そんなことはありえない」
「にゃーにゃ。にゃにゃん」
言語はわからないがマニューラは何かを強く肯定しているようだった。信じられない気持ちと、そういえばそうだったと何かを思い出した気持ちがごちゃごちゃしていて息がつっかえる。具体的なことはわからないが、とりあえず今日はもう寝よう。まだ何か言いたそうだったマニューラをボールにしまい、さっさと布団にもぐりこんだ。結婚なんて、面白いのだろうか。よくわからないまま眠りについた。
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10/05/09
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